T R A N S P O R T
日本の鉄道で無賃乗車したらどうなるか
改札突破・キセル乗車は運賃3倍請求、悪質なら詐欺罪で懲役10年の可能性。残高不足・乗り過ごし時の正しい精算方法も解説。2026年2月確認。
すぐわかるポイント
- 残高不足で改札が閉まったら、精算機(のりこし精算機)で不足分をチャージすれば出られる。これは不正乗車ではない。
- 改札を飛び越える・すり抜けるなどの行為は不正乗車。日本では「罰金を払えば済む」制度ではない。
- 不正乗車が確認されると運賃の3倍を請求される(運賃+増運賃2倍)。悪質な場合は逮捕・前科もありうる。
- IC残高不足、タッチ忘れ、乗り過ごしは有人改札で駅員に申告すれば問題なし。正直に言えば罰則はない。
- 外国人観光客でも故意の不正乗車なら逮捕される。ただし、システムの使い方がわからなかったケースで逮捕された報告はない。
- 定期券の区間外乗車を精算せずに出ると不正乗車。IC履歴で後日発覚する。
- 不正乗車が確認されると運賃の3倍を請求される。常習なら**電子計算機使用詐欺罪(拘禁刑10年以下)**の適用もある。
- 通勤定期の不正利用は会社にも通知されうる。懲戒解雇の事例がある。
- 残高不足やタッチ忘れは精算機か有人改札で処理すれば問題なし。
- 子ども用ICカードを大人が使う、学生定期を卒業後も使うなどは不正乗車。実際に逮捕された事例がある。
海外と日本の決定的な違い
パリやロンドンでは、不正乗車は「罰金を払えば済む」行政罰だ。パリのメトロでは€50の罰金、ロンドンのTfLでは£100の固定ペナルティ。現場で支払えば終わる。
日本は違う。不正乗車は刑事犯罪になりうる。
鉄道営業法第29条違反なら2万円以下の罰金または科料。悪質なら電子計算機使用詐欺罪で拘禁刑10年以下。改札を物理的に突破すれば建造物侵入罪で拘禁刑3年以下。これは行政罰ではなく、前科がつく刑事罰だ。
ロンドンTfLの2024-25年度の不正乗車率は地下鉄で4.8%、バスで2.6%(TfL情報公開請求FOI-0335-2526)。年間損失額は£188m(約360億円)に達する。日本の鉄道会社は不正乗車率を公表していない。理由は単純で、低すぎて問題にならないレベルだからだ。
なぜ日本の不正乗車率は低いのか。自動改札の普及率がほぼ100%、IC入出場記録の完全マッチング、駅員の目視確認。そして何より、「バレたら前科がつく」という社会的リスクが大きすぎる。
不正乗車の法的定義
鉄道営業法第29条(明治33年制定)はこう定めている:
「鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ二万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス」 「一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ」
制定時は「十圓以下」だったが、罰金等臨時措置法により現在の2万円以下に引き上げられている。
重要なのは第30条の2。これは親告罪だ。鉄道会社が告訴しなければ刑事事件にならない。初犯で協力的なら、鉄道会社は告訴せず、3倍運賃の請求で終わらせることが多い。
でもこれは軽い方だ。本当に怖いのは次のセクション。
「3倍運賃」の仕組み
JR東日本旅客営業規則第264条はこう定めている:
「普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせて収受する」
計算例:新宿→東京(¥210)を無賃乗車した場合、210 + 420 = ¥630の請求。
定期券の不正利用(第265条)も同様に3倍。通勤定期で区間外を乗車し、精算せずに出場した場合、不足区間の運賃×3倍が請求される。
キセル乗車(中間無札)の場合、乗車区間全体の運賃に対して3倍が適用される。例えば、横浜→新宿(¥570)を乗車したのに、横浜→川崎(¥220)と渋谷→新宿(¥170)の切符で通過した場合、570 × 3 = ¥1,710の請求。
私鉄も同様の規定を持つ。東京メトロ、都営地下鉄、東急電鉄などの旅客営業規則にも同じ「運賃+増運賃2倍」の規定がある。
罰金では済まないケース——詐欺罪の適用
悪質な場合は電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が適用される。10年以下の拘禁刑(2025年6月の刑法改正前は「懲役」)。罰金刑はない。
東京地裁平成24年6月25日判決(判例タイムズ1384号363頁)は、自動改札を利用したキセル乗車に初めて電子計算機使用詐欺罪を適用した。被告は約2年間、定期券の区間外を無賃乗車し、総額約30万円の運賃を免れた。判決は懲役1年6月、執行猶予3年。
改札を物理的に突破した場合、建造物侵入罪(刑法130条)が適用される。3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。改札は「料金を支払った人だけが入れる場所」であり、無断で入ることは建造物侵入罪に該当する。
捕まったらどうなるか——実際のフロー
不正乗車が確認された場合の実際の流れ:
- ゲート閉鎖/アラーム:自動改札が閉まり、アラームが鳴る。
- 駅員が声をかける:「お客様、少しよろしいですか」
- 駅務室に案内:改札外の駅務室に案内される。
- 身分証確認:運転免許証、パスポート、在留カードなどで身元確認。
- 運賃+増運賃の請求:運賃×3倍の金額を請求される。
- 自認書への署名:事実確認書(自認書)に署名を求められる。
初犯で協力的なら、3倍運賃の支払いで終了。これは微罪処分と呼ばれる。前歴は残るが前科ではない。鉄道会社は告訴しない。
悪質・常習・逃走の場合:
- 警察通報:駅員が110番通報。
- 現行犯逮捕:警察官が到着し、現行犯逮捕。
- 刑事手続き:警察署で取り調べ、検察庁に送致、起訴、裁判。
- 前科:有罪判決が確定すれば前科がつく。
「悪質」の判断基準は明確ではないが、常習性、金額、逃走の有無、反省の態度などが考慮される。
自動改札はどうやって不正を見抜くのか
日本の自動改札は世界で最も精密だ。
IC入出場マッチング:入場記録がないと出場できない。出場記録がないと次回入場できない。ICカードには最後の入出場記録が保存され、サーバー側でも全履歴が保存される。
入出場データ照合システム(1990年代後半〜、小田急電鉄の「フェアスルーシステム」等):入場駅と出場駅のデータを照合し、キセル乗車を検知する。例えば、横浜で入場し、川崎で出場した記録があるのに、次は渋谷で入場し、新宿で出場した記録がある場合、川崎→渋谷の区間が無札だと判定される。
赤外線センサー・圧力センサー:1人分の切符で2人が通過すると検知する。ゲートの両側に赤外線センサーがあり、通過する人数をカウントする。
IC利用履歴の分析:不自然なパターンを抽出する。例えば、毎日同じ最安区間(渋谷→原宿、¥140)のみ利用しているのに、実際の勤務先は新宿にある場合、定期券の不正利用が疑われる。
防犯カメラ:全駅の改札に設置されている。後日の証拠にもなる。JR東日本は2020年までに約1,200駅に約22,000台の防犯カメラを設置する計画を発表し、車両内にも順次導入している(日経新聞、2019年3月5日)。
うっかりミスの正しい対処法
このセクションが最も重要だ。残高不足、タッチ忘れ、乗り過ごしは不正乗車ではない。正直に申告すれば罰則はない。
残高不足で改札が閉まった場合
精算機(のりこし精算機)の場所:改札内、出口ゲート付近の壁沿い。「のりこし精算機」「Fare Adjustment」と表示されている。
手順:
- ICカードを挿入
- 不足額が表示される(例:「不足額 ¥120」)
- 現金を投入(硬貨・紙幣対応)
- カードを取り出す
- 改札を通る
現金がない場合:有人改札に行き、「残高不足です」(zanryō busoku desu)と伝える。駅員がクレジットカード対応を案内してくれる。ただし、すべての駅でクレジットカードが使えるわけではない。新宿駅、東京駅、渋谷駅などの主要駅は対応している。
タッチし忘れて入場/出場した場合
入場時にタッチし忘れた場合:出場時に改札が閉まり、「入場記録がありません」と表示される。有人改札に行き、「タッチし忘れました」(touch shi-wasuremashita)と伝える。乗車駅を申告すれば、駅員がIC履歴を確認して手動で処理する。
出場時にタッチし忘れた場合:次回入場時に改札が閉まり、「出場記録がありません」と表示される。有人改札に行き、前回の出場駅を申告する。運賃差額を精算すれば問題ない。
乗り過ごした場合
降りた駅の駅員に「乗り過ごしました」(nori-sugoshimashita)と伝える。駅員が折り返し乗車を案内してくれる。追加運賃は不要の場合が多い。
ただし、折り返し乗車は「同じ路線」に限る。例えば、JR山手線で渋谷→新宿を乗り過ごして池袋まで行った場合、池袋→新宿の折り返しは無料。でも、JR中央線で新宿→吉祥寺を乗り過ごして三鷹まで行き、京王線で三鷹→吉祥寺と戻る場合、京王線の運賃は必要だ。
きっぷを紛失した場合
有人改札に行き、「きっぷをなくしました」(kippu o nakushimashita)と伝える。乗車区間の運賃を再度支払う必要がある。
後日、きっぷが見つかった場合、購入駅の窓口で払い戻しを受けられる。ただし、払い戻しには手数料(JR東日本は¥220)がかかる。
定期券で区間外を乗った場合
区間外で降りる場合:精算機で差額を支払う。精算機に定期券を挿入すると、区間外の運賃が表示される。
区間外から乗る場合:乗車駅で切符を購入するか、ICカードで入場し、出場時に精算機で処理する。
うまくいかない時
| 問題 | 原因 | 解決策 |
|---|---|---|
| 改札が閉まって出られない | IC残高不足 | 精算機で不足分をチャージ。現金がなければ有人改札へ |
| 「入場記録がありません」と表示 | タッチし忘れ | 有人改札で「タッチし忘れました」と申告。乗車駅を伝える |
| 「出場記録がありません」と表示 | 前回の出場タッチ忘れ | 有人改札で前回の出場駅を申告。運賃差額を精算 |
| 精算機が現金しか使えない | IC精算機の仕様 | ATMで現金を下ろすか、有人改札でクレジットカード対応を確認 |
| 駅員に言葉が通じない | 言語の壁 | スマホの翻訳アプリを見せる。「Fare adjustment」で通じることが多い |
| 乗り過ごして終電がない | 寝過ごし等 | 駅員に相談。タクシーか近隣ホテルを案内してもらえる |
| 定期券の区間外精算ができない | 精算機の操作ミス | 有人改札で「定期券の区間外です」と申告。駅員が手動で処理 |
| ICカードが反応しない | カードの破損・電池切れ | 有人改札で「カードが反応しません」と申告。新しいカードへの移行が必要 |
よくある質問
Q: 残高不足で改札を出られないのは不正乗車?
A: いいえ。精算機でチャージするか、有人改札で申告すれば問題ありません。不正乗車は「意図的に」運賃を支払わない行為です。残高不足は単なるミスであり、罰則はありません。
Q: 子ども用ICカードを大人が使ったらどうなる?
A: 不正乗車です。運賃の3倍が請求されます。悪質な場合は電子計算機使用詐欺罪(拘禁刑10年以下)で逮捕・起訴されます。子ども用ICカードの不正使用はIC履歴から容易に発覚し、実際に逮捕・起訴された事例が複数報道されています。
Q: 外国人観光客でも逮捕される?
A: 故意の不正乗車なら国籍は関係ありません。ただし、残高不足やシステムの使い方がわからなかったケースで観光客が逮捕された報告はありません。正直に申告すれば問題ありません。駅員は「Fare adjustment」「Insufficient balance」などの英語を理解します。
Q: 不正乗車の「時効」はある?
A: 鉄道営業法違反は3年、詐欺罪は7年。IC履歴は一定期間保存されるため、後日発覚のリスクがあります。JR東日本のIC履歴は最大26週間(約6ヶ月)保存されます。鉄道会社が不正乗車を疑った場合、この履歴を分析し、過去の不正乗車を特定できます。
Q: 定期券で区間外を乗ったら不正乗車?
A: 精算せずに出場した場合は不正乗車です。区間外で降りる場合は精算機で差額を支払えば問題ありません。定期券の区間外乗車は、IC履歴で簡単に発覚します。常習的な不正利用は、会社にも通知されうる。懲戒解雇の事例があります。
Q: 学生定期を卒業後も使ったらどうなる?
A: 不正乗車です。運賃の3倍が請求され、悪質なら電子計算機使用詐欺罪(拘禁刑10年以下)で逮捕されます。学割定期は在学証明と紐づいており、期限切れ後の使用はIC履歴で発覚します。
Q: 改札を通らずにホームに入ったらどうなる?
A: 建造物侵入罪(3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)が適用されます。改札は「料金を支払った人だけが入れる場所」であり、無断で入ることは建造物侵入罪に該当します。
Q: 友人の定期券を借りて使ったらどうなる?
A: 不正乗車です。定期券は記名式であり、本人以外の使用は認められていません。運賃の3倍が請求され、悪質なら電子計算機使用詐欺罪で逮捕されます。ICカードの場合、防犯カメラの映像と照合され、本人でないことが発覚します。
関連記事
最終確認日: 2026年2月
出典:
- 鉄道営業法(明治33年法律第65号)第29条・第30条の2 — e-Gov法令検索
- 罰金等臨時措置法(昭和23年法律第251号)第2条 — e-Gov法令検索
- 刑法(明治40年法律第45号)第130条(建造物侵入罪)・第246条の2(電子計算機使用詐欺罪) — e-Gov法令検索
- JR東日本旅客営業規則 第264条(無札旅客に対する増運賃)・第265条(定期乗車券の不正使用) — JR東日本公式サイト
- 東京地裁平成24年6月25日判決(判例タイムズ1384号363頁) — 自動改札キセル乗車への電子計算機使用詐欺罪初適用
- TfL情報公開請求 FOI-0335-2526(2025年5月公開) — ロンドン交通局の不正乗車率データ
- 日本経済新聞「JR東日本、全駅に防犯カメラ」(2019年3月5日) — JR東日本の防犯カメラ設置計画